歯周病治療
- 白血球が集まってくる
- LPSを壊す
- 歯肉のコラーゲン繊維が壊れる
- 歯肉がぶよぶよになる
- 骨を壊す細胞が出てくる
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- 問診
- 歯周病は、他の全身疾患との関わりや常用薬による影響があることがあります。
そのため、現在の健康状態もお話を伺います。
なお、歯周病の一部は遺伝的な因子によるものがあり、ご両親やご兄弟の歯の状態も重要な情報です。
また、現在のブラッシングの習慣のお話も伺います。
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- 口腔内写真撮影
- 初診時のお口の中の状態を写真で保存し、治療経過の説明や治癒の状態を確認するのに使用します。
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- レントゲン撮影
- 歯周病の進行の程度は、同じお口の中でも歯によってかなり差があります。
1本1本異なる進行の程度を診断するために、お口全体の歯のレントゲン写真を10枚または14枚撮影して、周囲の骨の量や質を診断します。
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- ポケットの深さの検査
- 歯周病は、同じ歯でも歯の頬側、舌側、前の歯側、奥歯側で進行の程度が異なります。
それぞれの場所での進行の度合いを知るために、歯と歯ぐきの境目の溝の深さを測るポケット検査をします。
1本の歯に4~6箇所のポケットの深さを計測し、計測時に出血するかをチェックします。
ポケットは、3mm以下で出血がないと健康とみなします。
また奥歯では、分岐部病変の有無と程度を診断し、それぞれチャートに記入します。
●分岐部病変
奥歯には、歯の根が複数に分かれている歯があります。
このような歯で歯周病が進行して骨が減ると、根の分かれ目の複雑な形をした部分が歯ぐきの中に露出してしまいます。
このような病変を「分岐部病変」と呼びます。この部分は細菌が溜まりやすくなるだけでなく、複雑な処置が必要です。
そのため、他の部位とは別に、骨の吸収の状態により1度、2度、3度の3つに分類しています。
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- 動揺度検査
- 歯がどの程度揺れてしまうか、揺れの度合いを検査します。
歯をピンセットなどで押さえ、前後左右に揺らして揺れの度合いを見ます。
水平方向へ0.2~1mmの揺れを1度、1mmを越えるものを2度、上から指で押して縦に沈み込むように揺れてしまうものを3度、と表します。
特に3度の歯は重症で治療は不可能であるため、ほとんどが抜歯の適応です。
- Extraction:要抜歯歯(診断の時点で絶対に抜かなければならない歯)
- Questionable:治療経過によっては抜かないで済むかもしれない歯
- Remained:完全に残せる歯
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- プラークコントロール、歯肉縁上歯石の除去
- 基本的なブラッシングの方法や歯ブラシの選び方、補助的な清掃用具の使い方等を覚えていただきます。
歯周病はほとんどの場合、奥歯の歯と歯の間の磨きにくいところが進行しています。その部分をきれいにできるかが大きなポイントです。
治療は、歯茎の上に見える部分のクリーニングから始めます。傷んだ歯肉や歯の表面を傷つけないように、ポケットの浅い部分のプラークや歯石を無理せず簡単に除去できるものから除去します。
最近はほとんどの場合、超音波の振動を利用した超音波スケーラーという機器が用いられます。この処置は、2~3回で終わります。
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- 再評価、SRP
- 初診からおおむね1ヶ月後、ブラッシングによる歯肉の引き締まりを待って、再度ポケット検査をします。
検査の結果に基づいて、初めに決定された治療計画の変更が必要かを再度検討します。歯周病が軽度の部位は、ほとんどの場合ここまでの治療で治りますが、以降も定期的なメインテナンスを続けていかなければ再発の危険があります。
この時点で深いポケットがあり、出血も認められる部位は次のステップへ治療を進めます。
次の治療は、保健用語でSRP(スケーリングルートプレーニング)と呼ばれています。
この処置は、ポケット内部の歯根表面についた歯石や細菌性の汚染物質を取り除く治療です。
現在では、この処置を歯根面のデブライドメントと呼んでいます。この処置はポケットの深い部分を触りますので、麻酔が必要な場合があります。
この治療は、以前はキュレットと呼ばれる手用の器具でガリガリ削って、根の表面をツルツルになるまできれいにしました。
現在では、根の表面のセメント質という、歯周組織の再生にとても大切な生きた細胞を傷つけないように、特別なチップをつけた超音波スケーラーを使用する方法に変わっています。
これは、歯の表面の組織であるセメント質の重要性がわかってきたことと、細菌性の汚物が歯に付着している強さが非常に弱く、簡単に剥がれることがわかったことによります。キュレットによる方法は、術者の技量の差が治療結果を大きく左右してしまうことや、セメント質を余計に削り取ってしまい、根の表面に細菌が溜まりやすい傷を作ってしまうことがあります。
なおスウェーデンでの研究によると、この超音波スケーラーも、歯根表面が傷つかないよう特別に開発されたタイプのものでないと根の表面を傷つけてしまうデータが出ています。また、この処置を健康保険治療の範囲で行う場合は、お口の中を6つのブロックに分けて1ブロックずつ処置をしなければならないので、すべての歯をきれいにする必要がある場合は6回の来院が必要です。
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- 再評価
- 処置の終了から歯肉の治癒期間を考慮して、再度ポケットの深さ、出血の有無を検査します。
初期から中等度の歯周病は、ほとんどがここまでの処置で治すことができます。歯肉が治ったのを確認できたら、ここで初めて被せ物を製作する補綴処置の段階に入ることができます。
この時点の歯ぐきの位置は、歯周病が治癒して歯ぐきが引き締まったために、初診時の位置よりも下がっています。
今まで見えなかった、被せ物と歯ぐきの境目のラインも見えてきます。
これ以前に最終的な被せ物を作ってしまうと、被せ物と歯ぐきの境目の位置を適切に作ることができず、あとで見た目が悪くなったり、清掃性が悪く歯肉の炎症を起こしやすい被せ物になってしまいます。
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- 歯周外科手術
- ここまでの治療が終わっても6mm以上のポケットがある部位では、骨の形態を整えて外科的にポケットを浅くする手術が必要です。
一般的に行われる手術は、歯肉剥離掻爬術(FOP)と呼ばれる手術です。簡単に言うと、歯ぐきを開いて根の表面を直接見て汚染物質を取り除くとともに、ポケットを浅くします。
この手術は、外科的に歯ぐきの位置を下げてポケットを浅くするので、術後約2mmくらい歯茎が下がります。このため、手術後は歯と歯の間の隙間が大きくなり歯が長くなったように見えてしまうので、審美性のためにあとから被せ物で形態を整える等の処置が必要です。
このような手術は術前術後のプラークコントロールがとても重要で、十分なプラークコントロールができていない状態での手術はかえって歯周病が悪化してしまいます。
術後も、早期にブラッシングを開始してプラークコントロールを続けていかなければよい結果が出ません。
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- 補綴処置
- 以上の一連の処置がすべて終了し、歯肉の健康が完全に取り戻せた段階で、初めて冠などの最終的な被せ物を作る補綴処置に入ります。
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- メインテナンス
- すべての治療が終了したときが新たなスタートです。
歯周病の再発を防ぐためには、定期的なメインテナンスが不可欠です。
初めは1ヶ月ごと、次は2ヶ月ごとというように徐々にメインテナンスの期間を開けて、最終的には3~4ヶ月に1回程度のメインテナンスを一生続けていかなければなりません。
歯周病とは、歯の周りに溜まった歯周病菌(プラークまたはバイオフィルム)の影響で、歯を支えている歯肉に炎症が起き、歯槽骨と呼ばれる歯を支えている骨が徐々に溶けてしまう病気です。
放置すると最終的に歯が抜け落ちてしまいます。痛みを感じにくく慢性的に進行するので、自分で気がついたときにはかなり進行している場合が多いのがこの病気の特徴です。
日本人の歯を失う原因の多くは歯周病です。
軽度歯周病
歯肉の腫れが大きくなって歯周病菌が歯周組織に侵入し、歯槽骨や歯根膜が破壊し始めました。
ポケットが内部に向かって深くなり、歯周ポケットになっています。
プラークや歯石が歯周ポケットに溜まっています。
中等度の歯周炎
炎症がさらに拡大して歯槽骨が歯の根の長さの半分近くまで破壊され、歯がぐらつき始めました。
歯周ポケットもさらに深くなっています。
重度の歯周炎
歯槽骨が半分以上破壊され、歯はグラグラです。
最後は歯が抜けてしまいます。
せっかくのブリッジも、歯周病で土台が破壊されたため、自然に抜けてしまいました。
歯周病の主な症状
ブラッシングで出血する
何となく歯が浮いた感じがする
歯に力が入らず、硬いものが噛みづらい
口の中がねばねばした感じがする
このような警告信号が出ることがあります。
疲労が重なると歯ぐきが腫れる
歯周病は、急性化すると激しく痛んだり腫れますが、数日で痛みや腫れは消失してしまうため、治ったものと勘違いして知らないうちにさらに進行していることがよくありますので注意が必要です。程度の差はありますが、日本人の成人の約80%の方がこの歯周病に罹患しています。
軽度の歯周病は、適切なブラッシング法を身につけ、定期的に歯のクリーニングを受けるだけで比較的簡単に治すことができます。中等度以上に進行してしまった場合は、治療に長い期間を要します。
また、非常に再発しやすい疾患なので、治療後も歯科医院で年に数回の定期的なクリーニングをするなど、予防のためのメインテナンスを続けていかなければ健康は保てません。
健康の第一歩はお口から始まります。食べ物をしっかり咀しゃくできない状態が続くと、唾液の分泌が減り、胃腸で消化吸収がスムーズに行われなくなり、身体全体に大きな負担がかかります。さらに最近の研究では、歯周病は細菌自体や免疫系への刺激を介して、糖尿病や心臓血管系疾患、骨粗しょう症、低体重児、早産などの全身疾患のリスクを高めることがわかりました。
例えば、心筋梗塞などの発作による死亡率は、歯周病をもっている人の方が高いという恐ろしいデータが報告されています。また、遺伝的な原因で起きる歯周病の遺伝子の位置は、糖尿病の遺伝子と近いところにあり、お互いに関連して発病している可能性があるとわかっています。
このように歯周病は、歯の寿命だけでなく、人間の命を短くしてしまう可能性があります。研究はまだ始まったばかりなので、今後も種々の全身疾患との関連が徐々に明らかになると思われます。
一方、糖尿病、肥満、ストレス、喫煙などは、歯周病のリスクを高める作用があります。特に喫煙者の方は歯周病のコントロールが難しく、歯ぐきの傷の治りも大変遅くなります。場合によっては、禁煙をしない限りその進行を止められないことも多くあります。
歯周病にかかっているかどうかは、歯科医院でのレントゲン写真撮影のほか、歯と歯ぐきの境目の溝の深さを測るポケット検査をすれば、進行の程度がわかります。
歯周病の原因(やや専門的)
歯周病は、歯の周囲やポケット内で増殖した細菌による感染症です。
歯周病菌は、菌の体内に内毒素(LPS)という毒素を持っていますが、細菌の増殖とともに古い細菌が死ぬと、次々毒素がポケット内で放出します。細菌の量が増え、古い細菌が多くなればなるほど毒素も増えます。
この毒素は人間の免疫系統に感知されやすい物質であるため、周囲の歯肉の免疫機構がこれを感知し、周囲およそ2mm以内に毒素を処理するための白血球がたくさん集まってきます。
白血球は、この内毒素を壊そうと種々の物質を放出したり、毒素を取り込んで死に絶えます。
これらの反応の結果、自分自身の歯肉の細胞内のコラーゲン繊維が壊れ、歯茎がぶよぶよになります。これが歯肉の炎症です。
この状態が続くと、人間の身体はさらに進んだ防御策を取ろうとします。
今度は自分自身で歯を支えている骨を溶かし、毒に侵されて危険な歯を排除してしまおうとするのです。
破骨細胞という骨を壊す細胞を出動させ、歯を支えている骨を溶かしてしまいます。意外かもしれませんが、直接歯茎や骨を壊しているのは、細菌ではなく細菌から身を守ろうとする自分自身なのです。
このように歯周病とは、細菌の毒素とその毒素に対する人間側の反応によって歯周組織が壊れる疾患です。これらの反応はかなり個人差があります。同程度の細菌量でも反応しない人と、大きく反応してしまう人がいます。
年齢によってもその反応は異なり、40歳以上になると強くなる傾向があります。このような歯周病の発症や進行に影響する因子を「歯周病のリスク因子」と呼びます。現在わかっている歯周病のリスク因子としては、年齢の他に喫煙、糖尿病、肥満、ストレス、女性では妊娠、ピルの長期間服用などがあります。これらの因子を除外できると、臨床的に歯周病の治療が進みます。
また、10%の人は遺伝的に歯周病になりやすい遺伝子を持っており、十分なプラークコントロールをしているにも関わらず進行してしまう場合があります。ご両親のどちらかが若いうちから多くの歯を失っている場合は注意が必要かもしれません。
歯周病治療の基本
当院では、スウェーデン・イエテボリ大学での歯周病治療法に基づいた、身体に優しいスウェーデンスタイルの歯周病治療を提供しています。
先に述べた、白血球を刺激しない口腔環境を長期間保つことが初期の治療です。
歯の周囲で細菌の内毒素が増えないように、徹底的にきれいな状態を保つことです。
そのためには十分時間をかけてていねいにブラッシングを行い、白血球が反応しない量まで細菌や内毒素の量を減らしていかなければなりません。
細菌は数秒で分裂し増殖を始めますので、わずかなプラークの残りでもそこからすぐに数が増えてしまいます。
むし歯の細菌は食物中の糖分を栄養源にしますが、歯周病菌は必ずしも人間の食べ物から栄養を摂るわけではありません。
ポケット内で剥離してきた粘膜や血液のかす、唾液中の種々の物質から栄養を摂るため、食事をしていなくても増殖します。
また、歯石は細菌や内毒素が溜まりやすい環境を作り出すので取った方がよいですが、歯石や目に見えるプラークがないところでも細菌や内毒素は付着していますので、目に見える汚れだけが敵ではありません。
治療開始直後の歯肉の炎症が強い状態では、無理に深いところの歯石を取ろうとすることで、かえって弱っている歯肉を傷つけ、炎症の範囲を広めて治癒を遅らせてしまいます。
適切なブラッシングにより、荒馬を静めるかのようにゆっくり歯肉の炎症を抑えていかなければなりません。
歯肉が徐々に引き締まってきたところで、少しずつ深い部分のクリーニングをします。私たちも目の前にある歯石を目の前にすると、つい早く取りたくなってしまうのですが、歯周病の治療の初期は歯肉の炎症をじっくり待つことも治療の1つなのです。
歯周病は、ブラッシングが大切な治療です。
健康な歯肉の人が健康な状態を保つために必要なブラッシング時間の倍以上をかけてブラッシングをしていかなければ、歯肉の炎症はなかなか抑まってくれません。
時間をかけたブラッシングが歯肉のマッサージ効果で血行が促進され、歯肉の栄養状態がよくなり、老廃物の排除がスムーズに行われるようになります。
このように、歯周病治療の基本は適切なブラッシングによるプラークコントロールと歯肉のマッサージの習慣を身につけていただくことであり、重要な治療のポイントです。
プラークがついてから、その部分の歯肉に炎症が起き始めるまで約72時間かかることがわかっています。仮に1回のブラッシングでお口の中の汚れを100%完全に取り除けるとすれば、歯周病は理論的に3日に1回のブラッシングで十分予防できることになります。
しかしお口の汚れを100%取り去ることは到底不可能ですので、1日1回、時間をかけてていねいにブラッシングをすればよいのです。
ただしこれはあくまでも歯肉の炎症に関してのお話で、むし歯予防の観点からは1日2回のブラッシングがどうしても必要ですのでご注意ください。
お口の中には300~500種類もの細菌が棲んでいます。その中には、私たちの健康を守るために必要な善玉細菌もたくさんいます。ですからお口の中を無菌的にすることは不可能ですし、無意味なことです。歯周病の治療は、1日1回ていねいにブラッシングをして、内毒素を放出しやすい古い細菌が溜まらないようにすることが主な目的です。
【歯周病治療の流れ】1.診査
【歯周病治療の流れ】2.診断、治療計画
検査の結果は診断用のチャートに記入し、治療方法の選択や回復の程度を診断するときに使用します。
これらの検査結果を総合して1本1本の歯について予後の評価をし、以下の3つのカテゴリーに分類します。
ここで「Questionable」に分類された歯は、治療に対する反応を見ながらあとで再度評価をして、最終的にはどの歯も「Extraction」または「Remained」のどちらかに分類されます。
【歯周病治療の流れ】3.治療
初期治療とは、原因除去治療ともいわれ、炎症が起きる原因を除去する治療法のことです。
歯周病の予防
歯周病もむし歯もお口の中の特定の細菌が原因の疾患ですが、どちらも初期の段階ではほとんど症状が出ません。そのためご自身では、歯周病にかかっているか、あるいはむし歯になっているかを正確に判断することはできません。
残念ながら、歯科医院で診てもらう以外に方法はありません。
どんな重度の歯周病でも、はじめは軽度の歯周病です。この段階でくい止めることが重症化を防ぎます。
お口の中は常に多くの細菌にさらされています。どんなにていねいに磨いていても限界があります。歯石やプラークは必ず溜まってしまうものなのです。
歯周病やむし歯の予防にとって最も大切なことは、まず長期間にわたり継続的にお口の中の管理をしてもらえるかかりつけの歯科医院を見つけることです。そして、その医院で自分のお口の状況に合ったメインテナンスの期間の間隔を決めてもらいましょう。
この間隔は人によって異なります。ある人は年に一度で十分でしょう。しかしまた別の人は、2ヶ月に一度必要かもしれません。ご自身に合ったメインテナンス間隔で、歯科医院での定期的なチェックとクリーニングを受けて、お口の健康を保ってください。
お口の健康は、全身の健康の基本です。健康な身体を作る第一歩として、まずご自身のお口の健康をチェックしてみてはいかがでしょうか?